夜
お姫様みたいなふわふわなワンピースを着て
バレエシューズのかかとを踏みつぶして歩いている女の子
その歩調はゆっくりで
道に引かれた白線からはみ出さないように
うつむきながら歩いている
流れ作業のように歩をすすめた足が
街頭のスポットライトに照らされた
もう片方の足を引き寄せ
両足をきれいに揃えると
全身が光に包まれた
夜が始まったばかりの空には
純粋な引力を放つ満月があった
女の子は胸の前で両手を握り
ひとつ、呼吸をする
次の瞬間
くるりと回ると
白線が消えた
生まれたばかりの空気の中で
女の子はひらひらと踊る
両手を広げ
つま先で回り
一回目のステップを踏んだ時に
バレエシューズは脱ぎ捨てた
月の光を纏いながら
重力なんてなかったことを思い出す
ジャンプして宙に飛び出し
青い世界に身を預けよう
右腕をゆっくりと上げて
満月に指先を伸ばす
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