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飲み物は透明なグラスで

「透明なグラスに氷を入れて飲むと美味しいよ」
彼女にそう言われて、ぼくはハッとした。
ぼくに今足りていないものがわかった気がしたからだった。


最近のぼくは仕事に忙殺され、心のゆとりを無くしていた。
朝はまだ暗いうちから家を出て、そこから日付が変わるまでモニターを睨み付けていた。休みの日はひたすら資料を作り、仕事用のスマートフォンも肌身離さず持ち歩いていた。


そんな時、彼女が透明なグラスを買ってきて言った。
正確には、彼女が出掛ける前にテーブルに置いていった手紙に書かれていたのだけど、とにかくぼくはハッとした。


手紙と一緒に置かれていた二つの透明なグラス。ぼくはそのうちの一つを手に取り、氷を入れてアイスコーヒーを注いだ。

キッチンへと射し込む光がグラスと氷に溶け、美しい輝きを放った。少しだけ結露したグラスを傾けると、カランカランと氷の音が鳴る。そのままグラスに口を付け、ゆっくりとアイスコーヒーを飲む。肩の力が抜け、呼吸が柔らかくなっていることを感じた。

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